ボールパイソンの品種と遺伝の法則は切っても切りはなせない関係にあると言えるかと思いますが、遺伝の法則は難しくてどうも苦手だと毛嫌いされている方も多いようです。しかし、そういう人に“パステル”と“スパイダー”をかけたときの“バンブルビー”が取れる確率は?と訊ねると、4分の1!とほぼ間違いなく返ってきます。そして、そう答えた人の多くは分からないとは言いつつも、基本的な遺伝の法則はだいたい理解できているけど、自信がないだけのようです。

ここでは、ボールパイソンを飼っている方が普段使ったり、耳にしたことがあるであろうという言葉だけをなるべく使って遺伝について説明してみようと思います。まずは優性遺伝と劣性遺伝からですが、そもそも優性とか劣性とかいうのは何に対して言っているのかというと、当たり前のことではありますが、ノーマル表現に対して優性的に、劣性的に表現が表れることを意味しています。ですから、単にノーマル表現の個体ではなく、遺伝的にも“ノーマル”の個体(つまりホモのノーマル)にコンボではない単一のモルフを交配させた際に、いくら交配させてもノーマル表現の個体しか得られないのが“劣性遺伝”で、反対にモルフの表現の個体が得られるのが“優性遺伝”です。そして、劣性遺伝に付き物なのが“ホモ”、“ヘテロ”という言葉です。“ホモ”というのは、劣性のモルフでは、そのモルフの表現が表に出ている個体のことを指しますが、元々の言葉の意味は“homo=同じ”という意味です。そして、“ヘテロ”のほうは、反対にモルフの表現が表に出ていないノーマル表現の個体を指しますが、言葉の意味は“hetero=異なる”という意味です。遺伝子というのは、細胞の中で二つひと組の対(つい)になった状態で存在しています。遺伝の世界では、この“対”が同じ遺伝子で作られているものを“ホモ”、異なる遺伝子で作られているものを“ヘテロ”といいます。ですから、たとえばホモのゴーストという場合、ゴーストの遺伝子同士で“対”を作っているということを意味しています。また、ヘテロゴーストというのは、ゴーストの遺伝子とノーマルの遺伝子のふたつの“異なる”の遺伝子で“対”を作っていることを意味しています。

さらに話を広げていきます。ヘテロ、つまり異なる遺伝子で対を作っている状態でモルフの表現が表に出ているものを“優性遺伝”のモルフといいます。 “ドミナント”(Dominant)という言葉で表現されることもしばしばあります。そして、この優性遺伝のモルフの中には、“ホモ”つまり、同じモルフの遺伝子同士で対を作ったときに、さらに別の表現が表に出てくるものがあります。これを共優性遺伝(Co-Dominant=コ・ドミナント)といいます。 また、このときのへテロとは異なる“ホモ”の表現を“スーパー表現”、“スーパー〜”といいます。 実際のモルフでは、“スーパーパステル”、”スーパーシナモン”なんかがこれに当ります。そして、少し違和感を感じるかもしれませんが、“レッドアザン”や“アイボリー”もこれに該当します。これはわずかな違いとはいえ、ヘテロの状態でノーマルとは区別できる表現を持っているからです。

さて、いよいよ交配した結果、何がどれくらいの割合で出てくるかという説明に入っていきますが、もうひとつ重要なことを説明しておかなければなりません。さきほど、ホモ、ヘテロのところで触れたとおり、遺伝子というのは、細胞の中で二つひと組の対(つい)になった状態で存在しています。遺伝子は精子と卵子を通じて、親から子へと受け継がれていくわけですが、精子と卵子が受精卵を作った際にちょうど対(つい)が作られるように、親が持っている対の遺伝子のうちのどちらか一方の遺伝子しか精子、卵子には持ち込めない仕組みになっています。 そして、この仕組みが交配から得られる仔のモルフがどれくらいの割合で出てくるかというのを左右している要因となっています。具体的に例を挙げて説明してみます。パステル♂とスパイダー♀を交配させるとします。パステルは共優性遺伝のモルフですから、細胞の中で遺伝子はパステルの遺伝子とノーマルの遺伝子で対を作っています。なので、パステルの♂の精子は、パステルの遺伝子を持ったものと、ノーマルの遺伝子を持ったものの2種類が作られることになります。一方、スパイダーは優性遺伝のモルフなので、スパイダーの遺伝子がホモになっている場合と、ノーマルの遺伝子とヘテロになっている場合とが考えられます。ホモになっている場合は、対を作っている両方ともがスパイダーの遺伝子なので、スパイダーの遺伝子を持った卵子しか作られません。 ヘテロになっている場合は、スパイダーの遺伝子を持った卵子とノーマルの遺伝子を持った卵子の2種類が作られます。

これらをふまえて、もう一度パステル♂とスパイダー♀の交配を考えてみます。まず、スパイダー♀がホモだった場合は、卵子はスパイダーの遺伝子を持った卵子のみなので、これにパステル♂の精子が受精するわけですが、その精子はパステルの遺伝子を持ったものとノーマルの遺伝子をもったものの2通りがありますから、得られる仔は、バンブルビーとスパイダーの2通りになります。つまり、2分の1がバンブルビーで、2分の1がスパイダーということになります。そして、スパイダー♀がヘテロだった場合、スパイダーの遺伝子を持ったものとノーマルの遺伝子をもったものの2通りの卵子が作られ、そのそれぞれが、パステル♂の2種類の精子、すなわち、パステルの遺伝子を持ったものとノーマルの遺伝子を持ったものに受精される場合が考えられるので、スパイダーの遺伝子を持った卵子からは、バンブルビー、スパイダー、そしてノーマルの遺伝子を持った卵子からは、パステル、ノーマルと、合計4種類の仔が得られるということが分かるわけです。そしてこれを分かりやすく表にしたものが“パネットの方形”(Punnett Square:パネットスクエア)というものです。

さきほどのスパイダーがヘテロだった場合のパステル♂とスパイダー♀の交配を例にとってみます。まず、表記のしかたから順を追って説明していきます。パステルは共優性のモルフですから、ノーマルの遺伝子に対して優性です。この場合、一般に優性の遺伝子を大文字で始まる文字で表しますので、ここでは、パステルの遺伝子を“P”と表します。劣性の遺伝子は小文字で始まる文字で表しますので“n”と表します。そうすると、パステル♂の遺伝子型を“Pn”と表せます。同じように、スパイダーの遺伝子はノーマルの遺伝子に対して優性ですから、スパイダーの遺伝子は“S”、ノーマルの遺伝子は“n”、そしてスパイダー♀の遺伝子型は“Sn”とそれぞれ表せます。そして、縦軸にパステル♂の精子の遺伝子型である“P”、“n”、横軸にスパイダー♀の卵子の遺伝子型である”S”、“n”を入れて完成させたものが表-1です。

○表-1:パステル♂とスパイダー♀の交配

パステル♂
スパイダー♀

  S n
P PS
バンブルビー
Pn
パステル
n Sn
スパイダー
nn
ノーマル

表を見ていただくと分かるかと思いますが、結果は次のとおりです。

4分の1:バンブルビー
4分の1:パステル
4分の1:スパイダー
4分の1:ノーマル

となります。

バンブルビー
パステル
スパイダー
ノーマル

劣性遺伝のモルフについてもやり方は同じです。

アルビノ♂
ノーマル♀

アルビノ♂とノーマル♀の交配を考えてみます。アルビノの遺伝子はノーマルの遺伝子に対して劣性ですから、アルビノの遺伝子を“a”、ノーマルの遺伝子は“N”と表します。すると、アルビノ♂の遺伝子型は“aa”、ノーマル♀の遺伝子型は“NN”、そして、アルビノ♂の精子の遺伝子型は“a”と”a”、ノーマル♀の卵子の遺伝子型は“N”と“N”となります。縦軸にアルビノ♂の精子の遺伝子型、横軸にノーマル♀の卵子の遺伝子型を入れて表を完成させたものが表-2です。

○表-2:アルビノ♂とノーマル♀の交配

  N N
a aN
ヘテロアルビノ
aN
ヘテロアルビノ
a aN
ヘテロアルビノ
aN
ヘテロアルビノ

ご覧のとおり、すべてヘテロアルビノとなります。

ヘテロアルビノ
ヘテロアルビノ
ヘテロアルビノ
ヘテロアルビノ

つづいて、少し複雑になりますが、パステルゴースト♂とモハベヘテロゴースト♀の交配を考えてみます。
パステルゴーストの遺伝子型はPnggと表せますので、精子の遺伝子型は、“Pg”、“Pg”、“ng”、“ng”の4つです。
モハベヘテロゴーストの遺伝子型はMnNgと表せますので、卵子の遺伝子型は、“MN”、“Mg”、“nN”、“ng”の4つになります。
パステルゴーストの精子の遺伝子型を縦軸に、モハベヘテロゴーストの卵子の遺伝子型を横軸に入れて表を完成させると、表-3のようになります。

○表-3:パステルゴースト♂とモハベヘテロゴースト♀の交配

  MN Mg nN ng
Pg PgMN
パスタベH.ハイポ
PgMg
ハイポパスタベ
PgnN
パステルH.ハイポ
Pgng
パステルゴースト
Pg PgMN
パスタベH.ハイポ
PgMg
ハイポパスタベ
PgnN
パステルH.ハイポ
Pgng
パステルゴースト
ng ngMN
モハベH.ハイポ
ngMg
ハイポモハベ
ngnN
H.ハイポ
ngng
ゴースト
ng ngMN
モハベH.ハイポ
ngMg
ハイポモハベ
ngnN
H.ハイポ
ngng
ゴースト

結果は以下のようになります。

8分の1:ハイポパスタベ(パステルモハベゴースト)
8分の1パスタベヘテロハイポ(パステルモハベヘテロゴースト)
8分の1:ハイポモハベ(モハベゴースト)
8分の1:モハベへテロハイポ(モハベヘテロゴースト)
8分の1:パステルゴースト
8分の1:パステルヘテロゴースト
8分の1:ゴースト
8分の1:ヘテロゴースト

ここまで、自分でできれば、ほとんどのケースは自分でできるはずです。例題として、ゴーストとキャラメルのダブルへテロ同士の交配なんかが適当ではないかと思います。 ♂も♀も遺伝的には同じものなので、その遺伝子型は“gNcN”と表せます。そして、その精子、卵子の遺伝子型は“gc”、“gN”、“Nc”、“NN”のそれぞれ4通りとなりますから、これを縦横に展開して表を完成すればいいわけです。実際に完成する表は次のとおりです。

 

○ダブルへテロゴーストキャラメル同士の交配

  gc gN Nc NN
gc gcgc
キャラメルグロー
gcgN
ゴーストH.キャラメル
gcNc
キャラメルH,ゴースト
gcNN
ダブルへテロ
gN gNgc
ゴーストH.キャラメル
gNgN
ゴースト
gNNc
ダブルへテロ
gNNN
ヘテロゴースト
Nc Ncgc
キャラメルH,ゴースト
NcgN
ダブルへテロ
NcNc
キャラメル
NcNN
ヘテロキャラメル
NN NNgc
ダブルへテロ
NNgN
ヘテロゴースト
NNNc
ヘテロキャラメル
NNNN
ノーマル

結果は以下のようになります。

16分の1:キャラメルグロー
16分の2:キャラメルヘテロゴースト
16分の2:ゴーストへテロキャラメル
16分の1:キャラメル
16分の1:ゴースト
16分の4:ダブルへテロ
16分の2:へテロキャラメル
16分の2:ヘテロゴースト
16分の1:ノーマル

ただし、ダブルへテロ、ヘテロキャラメル、ヘテロゴースト、ノーマルは見分けがつきませんから、ポッシブルダブルへテロということになります。ダブルへテロに関してはあまり何%へテロという言い方はしませんが、あえて言うとすれば、9通りのうち、4つがダブルへテロなので、この場合、44%ダブルヘテロゴーストキャラメルということができるかと思います。

最後に対立遺伝子について触れておきたいと思います。 “対立遺伝子”というのは、同じ遺伝子座に属していて、特定の表現型に関与する遺伝子群のことををいいます。 そんな説明をされてもさっぱり意味が分からないかもしれませんが、ボールパイソンのモルフにもこの対立遺伝子の関係にあると考えられているものがあります。“特定の表現型に関与する遺伝子群”という説明でピンと来た方もいるかもしれませんが、ブルーアイリューシを作るモルフがこの対立遺伝子に当たると考えられています。 対立遺伝子はもとになる変異体(モルフ)のDNA塩基配列に微妙な差が生じて生まれたものですから、同じ表現に関係することになるわけです。なぜわざわざこの対立遺伝子を取り上げたのかというと、コンボしていく上で対立遺伝子同士では、他のモルフと同じようにはいかない部分が出て来るからです。 先ほどの説明の中で “もとになる変異体(モルフ)のDNA塩基配列に微妙な差が生じて生まれたもの”と説明した通り、実際に表現は異なりますが、もとは同じだったので、細胞の中でも同じものとして捉えられてしまうという訳です。つまり、異なる二つの対立遺伝子同士で形式上の“ホモ”を作ってしまいます。そして、同じ遺伝子座に属しているという性質上、対立遺伝子同士で3つ以上のコンボはできません。そこで、ブルーアイリューシの話になるのですが、ホモまたはコンボでブルーアイリューシを作るモルフ群は欧米では、BELグループ(Blue Eyed LeucisticGroup)としてまとめられています。

ブルーアイリューシスティック (スーパールッソ)
レッサープラチナム
モハベ

現在、このグループとして認められているものは、Lesser Platinum、Butter、Het White Diamond(Het Russo Leucy)、Mocha、Mojave、Phantom、Mystic、Special以上の8つのモルフです。Lesser/Butter、Het White Diamond/Mocha、Phantom/Mysticはそれぞれ遺伝的には“同じもの”として捉える流れもあります。 しかし、それぞれ別のストレイン(系統)として今後もなくなることはないと思いますのでとりあえず、8つということでいいかと思います。 さらに、予備軍としてHet PlattyやHet Energyが挙げられます。もしかしたら、今後新たにこのグループに加わるモルフも出て来るかもしれません。では、実際にブルーアイリューシの交配を“パネットスクエア”をつかって見てみたいと思います。 ここでは、Crystal(Mojave Special)♂とPastel Special♀の交配を例にとってみたいと思います。

クリスタル
(スペシャル×モハベ)

Mojaveの遺伝子を“M”、Specialの遺伝子を“S”、Pastelの遺伝子を“P”、ノーマルの遺伝子を“n”とすると、“M”と“S”は対立遺伝子の関係にありますから、形式上の“ホモ”をつくり“対”をなしています。したがって、Crystalの遺伝子型は“MS”となり、精子の遺伝子型は“M”と“S”の2通りだけになります。 一方、♀の Pastel Specialの遺伝子型は“PnSn”となり、卵子の遺伝子型は“PS”、“Pn”、“nS”、“nn”の4通りになりますから、これらをそれぞれ縦横に展開して、パネットスクエアを完成させたものが、次の表です。

  S Pn nS nn
M MPS
パステルクリスタル
MPn
パスタベ
MnS
クリスタル
Mnn
モハベ
S SPS
パステルスーパースペシャル
SPn
パステルスペシャル
SnS
スーパースペシャル
Snn
スペシャル

ここでは、対立遺伝子の例として、BELグループをとりあげましたが、これ以外にも、Yellowbelly、Spector、Het Puma、Het Highwayのモルフ群についても対立遺伝子であると認められているようです。そして、Cinnamon、Black Pastelのモルフ群、さらに、Het Red Axanthic、Lace Black Back、Het Lori、Green Pastelのモルフ群も対立遺伝子ではないかと考えられているようです。今後も交配が進むにつれ色々と新事実が明らかになっていくことでしょう。

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